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ドラすずストーリー2

     玄ちゃんは、小金持ち  

 あの日、三人組の少女達に出会った後、玄はフリマ仲間たちから質問攻めに合う。

特に、加奈子たちの女子グループからは玄ちゃんだけズルい、雀様と話すなんて……ましてや写真まで一緒に撮るとか絶対許せません。 

 もう日本から消えて!顔も見たくないわ……など。

意味のわからない罵倒めいた言葉さえ投げかけられた。

どうやら、雀ちゃんと仲良くなったことが問題らしい。

確かに、神秘的な不思議少女であることは認める。

俺も目があった瞬間に引き込まれた。

しかしだな、男から言われるなら、その気持ちも判らないでもないが、女子勢にここまでヤキモチめいた態度を取られると戸惑ってしまう。

大して年も変わらない少女同士、普通に話せば良いのにと加奈子に話したところ友達感覚とか絶対無理と言われてしまった。

そう言えば加奈子たちは、なぜ雀ちゃんを知っているのか?

 初めて会った日から数日後、学校帰りの三人が店にやってきた。 

代官山の外れにある閑静な住宅街、住所的には目黒区である。

近所には著名人の屋敷も数多く存在する。そんな一等地にある古いけど3階建て部屋数12のマンション。

その一階に店舗がある。看板には古物骨董 玄時屋と書かれている。

それも貸し店舗とかではなく自前の店。

何よりマンション全てを所有しているのだから。

 要は親の遺産であり、玄時屋の社長である。当然、賃貸収入なるものがあるわけで….。

ってことで本業の古物商は、言ってみれば個人の趣味である。

本質がお気楽なので儲けようなんて気持ちはこれっぽっちもない。

フリマも遊びの延長で、楽しいからやっているだけである。

「ここだね。」 マップを見ながら立ち止まる。

「そうだな…ってこんなとこお客さん来るのか?」真希がマンションを見上げて言う。

「来ないでしょ。」

 ボロすぎる……これが3人の第一印象である。

「それにしてもレトロな建物ね。蔦とか草が壁に貼り付いてるし…..ここ、人住んでんの?」

「一応マンションっぽいし場所だけはいいから住んでるんじゃないのか?」

「私は、こういう雰囲気好きだな。」

「ほんとチュンチュンって昔から廃墟っぽいの好きだよね。」

「うん。なんか落ち着くんだよ。」

「しかしまぁ….店もボロいな…こりゃ 建物ごと古物だ。」

3人は周りの目を気にするでもなく店舗前で好き勝手なことを話している。

「おい!何やってんだ….」と頭上から声がした。

見上げると屋上らしき場所で手を振っている。

「あっ….玄ちゃんだ。遊びに来たんだけどぉぉ!」大声で雀が返答した。

「今降りるから中で待ってなよ!」

いろんな彫刻が施された観音開きのくそ重い木造の扉を真希が力任せに開ける。

「どこから持ってきたんだよ….この扉….。」

薄暗い店内にはディスプレイもくそもなく品物がまとまりなく散乱している。

まるでフリマでの出店模様がそのまま引っ越してきたようだ。

中央に樹木の年輪が模様になった丸っぽい大きなテーブルと椅子があったのでとりあえず座る。

ずると、どこから現れたのかテーブルの上に大きな猫が飛び乗ってきた。

ニャオーっと鳴くと雀の前で立ち止まりお腹を見せて寝そべった。

その猫を撫でながら、「ふぅーん。君は男の子なんだ。」と肉球をプニプニしだした。

「この子の名前はニギにしよう。」

「しようって….勝手に名前つけていいのか?」

「だってこの子に名前はないもん。」

「なんでそんなことわかるの?だって店の中に居るんだよ….どう見ても玄ちゃんの飼い猫でしょ。」

「いいのいいの。ねぇニギ。」と言って頭を撫で抱き上げると今度は膝の上においた。

呆れた様子で雀を見ると、「真希ちゃん頂戴」っと手を出す。

「あーはいはい」っと、常に持ち歩いている非常食の魚肉ソーセージをリュックから取り出した。

「ニギ食べよっか」と言って自分のかじり欠けをそのまま口元に差し出した。

「待たせて悪かったな。ん…?」

膝の上の猫を見て、

「珍しいな…こいつが大人しく抱かれてるなんていつもは、嫌がって逃げ出すくせに。」

「そうなんだ。飼い猫に嫌われるなんて可哀想な人」と、真美子が言うと

「飼い猫?違うから、こいつ店の前で雨宿りしてた野良だから、悪さもしないから好きにさせてるだけで。」

「じゃぁなまえは?」

「そんなもん無いけど。」

「だから、この子の名前はニギだって。ねぇ~ニギ」そう言って顔を、くっつけて抱き上げた。

そんな雀の様子をデレデレしながら見ていた玄が

「まぁお好きなのどうぞ」とレジ袋に入ったお菓子やら飲み物をテーブルに置いた。

「ここに住んでるの?」お菓子に手をのばし真美子が聞く。

「まぁな」

「えっ……マジで、この汚いじゃなくて乱雑なスペースのどこで寝るの」と、辺りを見回す。

「いやいや、寝てないから。ちゃんと部屋あるから」

「だよね。さすがに寝ないか。じゃぁ見えない所に隠し部屋があるんだ。」

「いや、そんなの無いけど。て、言うか何か勘違いしてないか?普通に考えて、店の中で生活しないだろ。」

「じゃぁ、このマンションに部屋借りてるんだ。」

「借りているというか、所有してると言うか まぁそんな感じだ。」

「おい、嘘は駄目だぞ。」真希が棚に置いてある銃を玄に向ける。

「駄目ですよ。玄ちゃん。ねぇニギ」っと雀が続く。

「あー面倒くさ。ちょっとついてきて。」そう言うと、店を出てマンション入口の階段を上がる。

「エレベーターないの。」

「ないね。」

最上階というか屋上に出る扉を開けると、目の前に大きな部屋らしき建物がある。

「これが家?」

「まぁな」

鉢植えの観葉植物が置いてあったり洗濯物が干してあったり確かに生活感はある。

玄に促されて部屋に入ると、二十畳以上はありそうなワンフロアに巨大なテレビと座り心地の良さそうなソファ、壁には現代アートがいくつも飾られ、なかなかおしゃれな空間だ。

真美子が質問しまくる。

「結婚してるの?」

「いや、独り身だが」

「彼女は、いるの」

「いやいないけど」

「えっ、まさかの……」

「あのさぁ、パートナーがいなけりゃ、ここに住んじゃいけないように聞こえるんだが……」

「だってさ、どう考えてもおかしいでしょ。」

「そうだな。」

「当然ですね。」追い打ちをかけるように二人が頷きながら言う。

「あれ….もしかして俺ってお前たち以外にも、そんな風に思われてるのかな?」

「多分ね。」

「気づけよ。」

「お馬鹿さんですね。」

こんな小娘たちに散々な言われようをしても、どこかで自覚している自分が情けない。

「でも玄ちゃんだから、まぁ許せるか。」

真希が大して慰めにもならないことを言う。

あれ以来、なんだかんだと3人のお守り役をしてるわけで….猫? あぁニギね。勿論お守りしてますよ。

        初めての音楽会

 すっかりフリマ遊びに゙嵌ってしまった三人。

どうやら雀の情報は推し追っかけと言ってもいい子達の間で共有されているらしく常にマークされている状態だ。

 「なんかさ、だんだんと取り巻きが増えてるように思うのはウチだけか?」真希が、少女たちの集団に目をやりながら言った。

「実際、増えてるね。まぁ売り上げに貢献してくれる訳だし別にいいじゃん。」

「でもな、音楽会どうする?一緒についてこられたらマズくないか……」

 今日はフリマを早めに切り上げ、噴水広場で歌の検証をする予定なのだ。

「それは、駄目かも。」 万が一、自分の歌のせいでおかしなことになっても困る。と、雀は気にしているようだ。

「じゃぁ、どうするの?中止する?」真美子がそう提案するが、

「それは絶対嫌だ!」と駄々っ子のようにすね始める。

「でも、前から思ってたんだけど……なんで男女の比率がこんなにも片寄ってるの?極端過ぎじゃない?」

「うちに聞かれてもな……まっしょうがない……」 

真希はそう言うとツカツカと少女たちの集団に向かっていく。

「あのさぁ、フリマ終わったら大事なプライベートな用事があるから今回は、おとなしく解散してくれないかな。特にチュンが拗ねてるし嫌われたらイヤだろ。」と、珍しく冷静な態度で説得している。

 そして雀の方を見ると何かを促すような仕草をする。

真美子は、(あれ意外、真希にこんなスキルがあるとは……)と、驚きを隠せない。

 雀もその様子を見て「皆んな!ありがとうね。」と、ニコニコしながら手を振っている。

今まで、雀にこのような振る舞いをされたことのない少女たちは一斉に頭を下げた。

「ヤレヤレ、慣れないことして疲れたわ。」

「あんたが平和的に解決するとは一体どうしたの?」

「だって、音楽会であんな姿を見られてみ……ガチで恥ずかしいだろ。お前はいいよな。ほぼ平常だし。だからチュンにすがろうと思ってな。それに、うちが武力しかない脳筋みたいに思うのやめてくれないかな」

「だってさ、あんたの行動パターン、散々見てきてるんだから仕方ないじゃん。」

 雀が、「それには激しく同意します。でも、真希ちゃんはやっぱり頼りになるわ」と抱きつく。

「良い機会だから、これからは理論武装もよろしくね。」と真美子がにやりと笑った。

 フリマも特に問題なく終わり、片付けを始めると少女たちは、示し合わせたように解散した。

 向かいの公園内にある噴水池の畔に落ち着くと用意した楽器を取り出す。

 「さてやるか。」おもむろに真希が太鼓を叩き出した。

それに合わせ真美子が笛を奏でる。

どこか神楽を思わせる和風な音調が周囲に響く。

目を摘むって聞いていた雀が語るように歌いだした。

歌の内容は神話の世界での物語らしいが覚えていたのは始めの箇所だけで次第に意識が遠ざかり真希と真美子は自分の世界に引き込まれる。

 フッ、っと目が覚めて意識が戻ると手にした楽器は見当たらず

真希は仁王立ちで真美子は空を見上げボーッとしていた。

 「あーぁ 参ったな…… まさかの陰陽師かよ。」

 真希が開口一番 「なんだかよくわからん化け物を召喚してしまった。思い出すとゾッとするわ。あいつ夢とかに出てこないよな……。」

どうやら平安時代あたりに行って巨大な人食い鬼らしきやつと一戦交えたようだ。 

真美子は満開のお花畑で昼寝をしているような気分でひたすら気持ちがよかったとか。

 そんな中、雀は平然としていて、「ねぇ、前と比べてどうだった?」と聞いてくる。

 「うちは……」と真希が言おうとして、雀を見た時

 (おいおい、ガチか…… )

いつの間にか自分たちの近くに少女たちが祈りを捧げるようにしてひざまづいている。

「あれだけ念を押したのに。なんでだよ」

真希が苛ついた口調で言うが、

いつから居たのかさえ二人にはわからない。 それに、いつもの女子たちとは様子が違うような……戸惑っている二人に

 「この子達、はじめから居たよ。」雀は驚く素振りさえ見せない。

「はじめからって、いつから?」

「歌いだしてすぐかな。あー集まって来るな。って感じがしてそのままにしておいた。」

 少女達が三人を見つめる眼差しは冷静と言うか……雰囲気が普通の追っかけとは明らかに違う。

 一人の少女が口を開く。

「雀様、そして真希様、真美子様 私たちが側で見守ることをお許しください。」

「なに言ってんの? 様ってなに?見守るってなに?」混乱した真美子が、

 「あぁぁ……あなたたち大丈夫?」と、困惑した顔つきで聞く。 

「いいよ。側にいて。私たちは、もう帰るからまたおいでよ。」と、何事もなかったかのように雀が淡々と告げると

 「感謝致します。雀様。」っと少女たちは頭を下げ、そのまま立ち去った。

「何なの?あの子たち。ちょっと普通じゃないよ。チュンチュンあんなこと言って大丈夫?」

「でも危害を加えそうな気配はまったくなかったぞ。」

「ちょっとちょっと、あんたまでなに言ってんの。」

「真美子ちゃん、心配しなくても大丈夫だよ。見守るって言ってたでしょ。」

雀は、これから楽しくなりそうだ。みたいに、ちょっと悪戯っぽい笑顔を浮かべている。

「まぁあんまり気にすんな。いざとなったら私が守ってやるから」と、真美子の背中をドンっと叩いた。 

「あわわっ……ビックリするなぁ」少しよろめきながら、

「わかったわよ!」と何やら納得のいかない様子の真美子ではあるが

 「それにしても様付けで呼ばれるとか恥ずかしいような……なんというか罪悪感しかないわ。あー参ったな。」

 「て、いうか…… お二人様は平然としていらっしゃいましてらして、お、おかしいんじゃございませんこと。」  

 「おい、いきなりお嬢様に成りきるのはどうやら無理があるぞ。」

 こうしてはじめての音楽会は幕を閉じたのだが。 

 

「何やら雀様たちがおかしなことを始めたようだな。大丈夫なのか?」 

 付き添いで来ていた里の男が少女たちに、尋ねる。

 「私たちが止める手段はありませんから静観するしか。」

「それも、そうだな。それに常立様が動かないのなら理由がお有りなのだろう。ただ万が一にも雀様に危害が及ぶような事態があってはならん。お前たち、わかっておるな。雀様たちから決して目を離してはならんぞ。」

 「もちろんわかっております。影から見守りますので御安心ください。」

「だが……こちらからも、より一層お前たちが雀様をお守りできるよう手筈を整えておく必要があるかも知れんな。」 

 そう言って少女達を見た。

         三始祖

 人類がホモサピエンスに進化する以前から原始人類は、超自然的な現象、地球の営みを無意識に崇拝し宗教的な観念を持っていた。

 大いなる災害が訪れると三始祖と言われる者は、偶像化した姿で原始人類の前に姿を現し自然界の営みを諭した。

 それを明確に記録に留める手段は原始人類にはまだ無かった。

 更に進化が進み一層、知恵を持つ人類が個の存在を確立した時、三始祖は人類の未来を静観することにした。

 やがて地球上では文明が起き人神と呼ばれる者を崇めだした。

その地を統治する王や指導者を神聖化し神と呼び崇めることは、権力者を独裁者を産む土壌を作る。

 危惧していた人類の進化。そして近代において再び三始祖として偶像化した姿を現すことになる。      

       常立とドラすず 

 巨大な四つ足の龍は、 赤みを帯びた満月を背に深い森に連なる小高い丘に舞い降りた。

 「常立よ、この偶像化した姿というのはやはり便利なものよな。何より存在している実感がわくものだ。」

ドラすずは、そう言って誇らしげに新たな偶像を見せた。

「なぜ、人型の偶像にしないのですか?」

「それでは威厳が保てぬであろう。それに我は猿のような人類の姿を気に入ってはおらん。」

「人嫌いは相変わらずですね。」

「それより聞くが、お前はこうなることがわかっていて、種を保存したのか?」

「あの時、今を生きる人類より優れた優位性を持った種が誕生していたのは事実です。ただあまりにも少数で脆弱で絶滅するのは時間の問題でした。でも、確信があって種を保存したわけでもないのです。」

「我らは、種の進化には宇宙の摂理に従って干渉しないと決めたではないか。」 

 「自分でもよくわからないのです……ただ知りたいのです。人間が言う死の観念がない私は、この宇宙の中で何のために存在しているのか…」

「お前も人らしくありたいとでも言うのか。」

「私たちには、誕生した時より、人類の言う意識というものが存在しています。己が己であることを知っています。でも、長い時を過ごすうち疑問に思ったのです。果たしてこの空間にそんなものが必要なのでしょうか?」

 「それは地球の…いや宇宙の意思とでも言うしかないな。」

「人類の最終進化に答えがあるとは思いませんか?」

「さぁな、そもそも人類が地球にとって必要な存在なのか、疑問に思うし今もそれは変わらん。人類とはかけ離れた新たな種が地球に安定をもたらす可能性もあるしな。ただ人類は我らの想像を遥かに超えて進化を果たした。だが今のままだと、最終進化に届くことなく滅びるぞ。」

「ですから貴方に娘たちの加護をお願いするのです。私の想いを叶えてはもらえませんか。」

 (これも宇宙の摂理が望む一環なのか……ならばそれを見届けるのも我の義務なのか。)

 ドラすずは腕組みをしたまま暫くの間考えていた。

「ところで、里の者たちは自身の秘密を知っているのか?」

「いえ。選ばれし私の加護を受ける民であるとしか教えてはいません。里を訪れたら貴方様から伝えて下さいな。」

「よかろう。お前の言う通りにしようではないか。」

「それでは、月闇を訪ねて下さいませ。」

「あやつもお前と同じ事を考えておるのか?それより月闇は何故、雀の姉を名乗っておるのだ?」

「さぁ?私にはわかりません。なにしろ自由なお方なので」

「まぁよいわ。では月闇を訪ねるとするか。」

「里の者達よ。私の声は聞こえていますね。知っての通り、雀が行動を起こしました。

時が訪れたのかもしれません。雀の意思とは関係なく歌は更に、拡散されていきます。

これから人間社会が、どのような情勢になろうとも狼狽えてはなりませんよ。

貴方たちが始祖神と呼ぶお方に雀の加護をお願いしましたので、危害が及ぶことはないでしょが、始祖神の加護とは言えど内面に干渉するものではありません。

始祖神も、いずれ里に、お見えになることでしょうが、時が熟するまでは、雀たちを見守ることを優先しなさい。 」     

月闇

雀の姉を名乗る月闇もドラすずを頼った。

人類に希望があるのなら救って欲しい……と。常立とは違う思いで月闇も人類を見守っていたいのだろう。  

 「お前たちは何を考えているのだ。 我を人類に遣わす意味をわかっているのか。」 

「君は神を創り上げた始祖神として崇められる存在だもんね。人類に肩入れとか有り得ないよね。でも僕たちからしてみれば悪神だよね。」

「そういうお前も天の邪鬼とか呼ばれておった気がするが。」

「僕は、お遊びでやってただけさ。僕の欠片から打たれた月影を真希って子に渡してくれないかな。もちろん君の加護も封印して。」

「あの、お前自ら封印した刀をか……常立は知っているのか?」

「もちろん。そもそも常立が考えたことだからね。」 

「人類とは、厄介な生き物であるな。」

「だから君の力が必要なのさ。」 

「まぁよかろう。 ただ、お前達は、その代償の大きさに気がついてはおらんな。」

そう言って、ドラすずは飛び去っていく。  

( やれやれ。あの御方が人類をあまり歓迎してないのは変わらないね。  

  遠い未来に何かが起こりそうな予感がするよ。

  更に新たな種でも誕生させる気かな?)

      

        玄のフリマ日記

       フリマ日記 1   

 「ねぇねぇゲンちゃんゲンちゃん。これもっと安くしてよ。」 

常連客である加奈子が真っ黒な超ロングブーツを手に取りなにやら言っている。

「あのなぁ、お前、こんなブーツ本当に履くのかよ。お子さまに似合うとは到底思えん。」 

 「そんなことわかってるよ。普段履きとかじゃなくて次のイベントに使うんだよ。」  

 「イベント?って何の?」 

 「コスプレ!」

 「はぁ……..?お前、そんな趣味あったんだ。」

「言わなかったけ?」

「いやいや?初めて聞いた。」

「だから、紹介してもらった蕎麦屋で、バイトしてんだよ。とにかくお金がかかるんだ。衣装とか色々と。」

「ふぅーん、厄介な趣味だな。」

「でね、ウチって今、金欠じゃん。」

「知らんがな。そんなこと俺に関係ないだろ。」

「そんな切ないこと言わないでよ。お願いだから。」

「ったく。で、幾らなら出せるんだ。」

「500円」

「馬鹿なの。値札見てみ。」

「わかってるよ。でもどうしても、そのブーツが要るんだよ!」

「あのな、一応、有名ブランドだぞ!10000円が、どんな理由があって500円になる。」

「そりゃウチが、ヨルハ二号B型に変身するために。」

「はぁ……ヨルハ二号B型」

「ヨルハ二号ねぇ、ってあのニーアのヨルハ部隊の2Bか?」

「へぇー。ゲンちゃんよく知ってるね。そうだっんだ……ゲンちゃんがね……」

「俺だってゲームとかアニメぐらい見るぞ。」

「何か詳し過ぎじゃない?サラーっと見てるって感じじゃないんですけど。もしかしてフィギュアとかあったりして」

「い、いや、そんなことねーょ。」

「ねぇ。拡散していい?」

「やめろ……」

「って言われてもナ。」

「あっ….そうだ。ブーツ半額でどうだ!代金はバイト代入ってからでいいから。」

「ええーっ。だって他にも欲しいものあるし。女子高生ってなにかと大変なんだぞ。」

「じゃあ幾らならいいんだよ?」

「だから500円。ってかこのさい寄付でもいいか。」

「……お前って2pより悪どいな。」

「ねぇねぇ、もう行かないと始まっちゃうよ!」

「良い場所なくなっちゃうから早く行こうよ!」 

「加奈子の友達たちが手招きしながら小走りにやってくる。」

「ああぁごめんごめん。じゃゲンちゃんありがとね!

帰りに寄るからブーツ、キープしといて。あっ、ついでに武器のパーツもお願いね」

「おいおい!どこ行くんだよ?」

「噴水広場!音楽会始まっちゃうから後でね!」

そう言ってあわただしく公園の方へ走って行く。

噴水広場の音楽会って三人がやってる遊びだよな……

加奈子たちも行ってたのか。初耳だぞ……。

          

        教祖誕生

     代々木公園噴水広場

 春休みに入ると三人と、部員たちは天気のよい日は決まって噴水池の畔にいた。

 「さぁで、今日もやるか。」と、真希と瑞穂が入念にストレッチを始めた。

「真希ちゃん、今日もやる気満々だね」

「そりゃ、どんな展開が待ってるかわからんないからな。何かバトルが激しくなった気もするし」

「そりゃまた、楽しそうで何よりですこと。」

と、真美子が嫌味ったらしく言う。

 音楽会と言っても大層なものではなく 相変わらずどんとこぴびー どんとこぴびーと太鼓と笛の音色による単調なリズムが繰り返されているだけだ。

 はじめはちゃんと自覚を持って演奏しているのだが 時間がたつにつれ楽器を奏でている感覚さえなくなるのはいつものこと。 

 立ち行く人達は頭のおかしな女の子たちが奇妙なことをしているくらいの認識で通り過ぎていく。

雀たちを追っかけていた子たちも初めは部員たちに遠慮しているのか遠巻きに見てはいたがそのうち一緒になって参加しだした。 

こうして、代々木公園に来る度、噴水広場に行っては音楽会を楽しんでいたのだが回数を重ねていくうちに異変が起きた。

 演奏がはじまると側を通る見知らぬ人が立ち止まり3人の近くに腰をおろすようになったのだ。

 人の数は次第に増えて、やがて輪になり3人を取り囲む。

中には突然、踊り出したりする人もいるが誰も気にすることなくひたすら自分の世界に引きこもり夢を見ているかのような現実を体験している。

ただし全ての人がこんな体験をできるわけでもなさそうだ。

まったく無関心に通り過ぎて行く人、参加しても途中で抜けてしまう人も数多くいる。

雀が歌うのを止めても、しばらくは余韻が残るようですぐにこの場を離れようとはしない。

平常心に戻る時間に個人差はあるが、誰もがそのうち現実に戻り戸惑いの表情を見せる。

そのうち、更にどっぷりと嵌まってしまう人達も現れた。

今日は、フリマを途中で抜け出して音楽会をやっていた。

「あーあ、今回はあんまり調子よくなかった気がするなぁ……」

真希にひざ枕された雀が、 「今日のは、どうだった?」と、聞く。

「いつもより身体が動かなかった気もするな….それに一度映像が切れた。」

「うちは相変わらず気持ちいいだけでいつもと同じだったけど….真希と何が違うのかな?」

「思い込みが軽いんだよ。うちらみたいに勝ちたい気持ちが足りないってことだ。」と、

「別に勝ちたくないんだけど….てか、なんで瑞穂がどや顔……」

「うううっ….真希ちゃん….く、くるしい」

「あっ、悪い悪い….ちょっと興奮しちゃった」

「はぁぁ….それにしてもいい天気。芝生の上に大の字になって空を見上げる。」

 目を瞑るとそのまま眠りに落ちそうだ。

「なぁ、うちらこれからどうなるんだ?」確かに3人が思い浮かべた音楽会とは違う展開だ。

こんなに人が集まるとは思わなかったし….それに….「ほら、見て….あそこにいる子たち。」

 真美子の視線を追うと3人を遠巻きにして人が固まって立っている。

相変わらず女子率が圧倒的なのは特別な意味でもあるのだろうか?

 立ち上がりお互いの背中やお尻あたりを、(うわぁ汚なっ)とはたく。

みんなして、そんなことをしていると、何人かの女の子が近づいてきた。

そのうちの一人が雀の前に立った。

 「あ、あの….これ。」と、綺麗にラッピングされた箱を渡す。

 いつも差し入れをしてくれる子だが 今回は、プレゼントっぽい。

「ありがとう。今、開けていい?」

 「あ、はい。」と、恥ずかしそうに戸惑う少女は、小さく頷いた。

皆も興味津々で覗きこむ。

「ぷっっ….なんじゃ?こりゃ?」

真希が中の1つをつまみ上げ、思わずふきだした。

「ドラゴンの頭に乗っかった巨大なすずめって…ヤバくね .」

ステッカーやらに混じってキーホルダーにまさしく竜の頭に乗っかった巨大なすずめがふてぶてしくたたずんでいる。

 ジィィっと見ていた雀が、

「これいいな。なんか可愛い!へぇぇ。色んなバージョンがあるんだ。」

 と、キーホルダーを目の前でぶらぶらさせながら、

「どうしたの?これ?」と聞いた。

女の子は、ちょっと恥ずかしそうに 

「こ、これは….皆さんで協力して制作したんです。雀様の歌を聴いてる時お告げがあってお前たちは、選ばれたのだ。命をかけて雀を守る戦士として。って……すずめを頭に乗っけたドラゴンが言うんです。」

「私たちは、ドラすず様って呼んでますけど。ほんとごめんなさい。私たちみたいな下僕に雀様を守れなんて。ほんとごめんなさい。」

そう言って女の子は、何回も頭を下げる。三人はお互いの顔を見合せ 

「お告げって…… 戦士って…… あなた一体、どんな世界に行ってたの??」

今にも泣きそうな顔をして祈りを捧げるように指を絡め雀を見ている女の子の手を取り

「その雀様は、止めようよ…… 下僕ってやつも。」と微笑む。

「でもやっぱり雀様です。」

「何だかあなた達に言われると恥ずかしいよ….。」

「それより、さっき私たちって言ったよね?」と、真美子が少女に聞いた。

「はい。あそこにいる子たちも同じ映像を….」

「そんなことってあるの?」っと三人は顔を見合わせた。

「でも見たって言ってるぞ。」

「調子の良かった日かな……」

「ねぇそれはいつか覚えてる?」と、雀が少女に聞く。

「2回前の音楽会です。」

もしかしてあの日か……..その日は、天気が急変して突然、雷が鳴りはじめた。

 でも雨が降るでもなく何回か雷が鳴ったあとは何事もなかったように穏やかな天気に戻る変な日だった。

音楽会に来ていた人のうち雷に反応した人はごくわずかで私たちもヤバいな?って思ったけど誰も移動しないし、そのまま続行した。 

部員たちに聞いても、嘘ぉ….雷?全然わからんかった?と、気づいてなかった。

 「それでですね….勝手なお願いなんですけど私たち雀様のファンクラブを設立したいんです。」

「ほんとごめんなさい。」女の子たちは、また、一斉に頭を下げた。

「で、こういうの作ったわけだ。」 真美子が頷きながら言う。

「はい。」

「いいんじゃないの。チュンチュンもいいよね。」と、決定事項のような独断ぶりだ。

「私は二人が良ければ問題ないよ。」

「だったら決まりね。あなた、お名前なんて言うの?」

「加奈子って言います。あっ、ちなみに高1です。お三人のことを崇拝してます。」

「崇拝って….大袈裟だよ。」何だか三人の知らないところでは凄いことになっているようで….本当に私たちはこれからどうなるの?状態だ。

「そのファンクラブ?って何人くらいいるの?」

加奈子は、少し思案しながら….「今のところ500人くらい?もっといるかも?毎日増えているような….ごめんなさい。正解にはわかりません。」と、また頭を下げる。

「500人….なにそれ?どうやって集まった。って言うよりこの子たちの繋がりってどうなってんの?」

素早く真希が検索する。

「おい見ろ….」 #雀様 #雀様の音楽会 音楽会のことが書かれ画像もいっぱい上がっている。

三人はスマホの画面を見て驚いた。薄々とは気付いていたがまさかここまでとは

「うわぁ。いつの間にか凄い勢いで拡散されてるわ……」

雀が自分の画像を見て、「こうして見ると結構可愛いな!」っと、まんざらでもなさそうだ。

「もう、この際だから、成り行き任せで、いくとこまで行くか?」それに真美子のことだ。きっと、なにやら閃いたのだろう。

「じゃあ加奈子ちゃん!あなたが会長ってことで宜しく。」っと真希の袖を引っ張る。

「加奈子宜しくな。」「はい。加奈子さん宜しくです。」と、雀にぎゅっと手を握られ、またまた泣きそうな顔をしている。

「はい!雀様!私たち頑張ります。」大はしゃぎをしている加奈子たちに、じゃあまたねっと告げ会場に戻ることにした。

「おい!何を企んでいる。」「何を企んでいるの真美子ちゃん。」歩きながらどことなく胡散臭い眼差しを向ける。

「そりゃあんだけ雀ファンがいれば そのなんて言うの有意義に有効的に効率よく お金儲けするのがいいかなあ?なんてね….ははははは….」

「やっぱりそうきたか。」 「きましたね。」部員たちも同意するように頷き

「で、具体的にはどうすんだ?」と、瑞穂が聞いた。

「うーん?教団、雀って感じ?さっきの子たち見て、これって宗教みたいな感じだな?って思ったの。」

「えっ、ファンクラブって言ってましたよ。」部員たちが同時に声を上げる。

「あれは、芸能人とか見ている感じじゃないよ。だって崇拝だよ崇拝。崇めるとかって宗教じゃん。」

「じゃあチュンは教祖ってことか?」と、真希が笑いながら言う。

「教祖って….なんか響き悪いな。もっと可愛いのないの?」

「可愛いって言ってもなぁ….?やっぱり教祖しかなくね?」

「えええぇ…なんか微妙……ってかさ、二人だって崇拝してます。って言われてなかった?」 

「そうだっけ?でも雀様を見る眼差しは我々と違う気がするぞ。」

「なに……真希ちゃんまで雀様って」 

 「ところで、これ名前、何だっけ?」リュックにぶら下げたキーホルダーを触りながら雀が聞いた。

「このドラゴンすずめのことか。ドラすず様とか言ってたぞ。」

「あの子たちにしてみれば守護神みたいなもんだから気合い入れて制作したんじゃないの。」先ほどの出来事をあれこれ話しながらフリマ会場に戻った。

 「やれやれ。ようやく帰ったきたか….ったく俺は見張り番かよ。」

とっくにフリマは終了していて玄が皆の分まであと片付けをしている。

いつもこんな調子で、まるで使い勝手のよい使用人である。

まぁ嫌々やってる訳でもないので別に苦労とは思ってないけどな。 

思えばこいつらともおかしな関係になったもんだ。

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