危ない遊戯
「えっ…なに?」 その妖しく瞬く虹彩が混乱した違和感を更に増幅させる。
もう一度鏡の中を覗き込み、その顔を現実に置き換えるようにじっと見た。
腰の辺りまで伸びた黒髪がセーラー服によく映える小柄な女の子。
とっさに目を閉じ大きく息を吸い込むと、ふぅっと、モヤモヤとした疑問を吐き出した。
カラコン?違う、違う…… そんな単純な色合いじゃない。
まるで渦巻き銀河の写真を見ているようで、そのままずっと見つめていると吸い込まれそうな気がする。
「パンクっぽい格好ってやっぱりカッコいいね。」
突然、鏡の中の少女に声をかけられ慌てて我にかえり横目で女の子を確認する。
無意識に、「外人?」と最も安易な答えを考えてしまった……
「混ざりものなし純血の日本人らしいよ」
心の中を見透かされたようにそう言われて
「あぁぁっ変なこと思ってごめんなさい..でもその?」っと言いかけてやめる。
触れてはいけない..っと思った。
でも疼く..どうしようもなく本能が疼く。
「生まれつきなんだ。気になってるんでしょ….この目。」と、笑顔で言われると何倍も気持ちが落ち込む。
黙ったまま、うつ向いていると包むように手を添えられ、
「はい。これ」っとハンカチを手渡された。
白くて華奢な指先からひんやりと伝わる感触が気持ちいい。
「あっ……ありがとう。」
顔をあげ目があったその時、まるで森の中を歩いているようないい香りが鼻をくすぐり、ちょっと背伸びしたその子にキスをされた。
あまりに突然の出来事に、何も言えないまま水の中から眺めるようにぼんやりとその子を見つめた。
扉が開く音と、伯母さんの 「凜ちゃん席案内されたから。」と、言う声にビクッとして現実に引き戻される。
「凜ちゃんって言うんだ」女の子はクスッと微笑み、
「また会えるといいね。凜ちゃん。」と言いながら目配せをして出て行った。
「ずいぶん不思議な子ね。知り合い?」
「えっ….うん……ちょっとね。」と、理由もなく嘘をつく。
席に向かう途中で店内を見回すがその姿はどこにもない。
手に持ったままのハンカチに気付き、初めてのキスが女の子って..
でも不快な気持ちはまったくなく、むしろ懐かしい感触さえ唇に残った。
教室の窓から校門の方向ばかり見ている。
「おい! 担任が進路用紙早く持ってこいってさ。」
クラスメイトの大輔が肩をつつく。
「なぁいつまでボーッとしてんだよ」
「そんな風に見える?」
「朝から何回同じこと言ってるか、わかってんの。」
唇を意識するたびに昨日の出来事を思い出しあの子を追い求めている。
せめて名前くらい聞いとけばよかった。
「ねぇ君って彼女とかいるの?」
「なんだよ。いきなり..」
「一応サッカー部のキャプテンとかやってるし普通にモテそうだから聞いてみた。」
「い、いねーよ……そんなの!」
「ふぅーん……そうなんだ。でもね、思い切り否定するのって怪しいと思うんだ。」やっぱり男子の反応って同じだな……
「はぁ、、お、俺は……本当のこと言ってるだけだし!そう言うお前は、どうなんだよ」
「彼氏とかじゃないけど興味のある対象はいるかな。」
「えっマジで…で、だれ?」
「だれって、ふつうそこ聞くかな。 まぁ身近なお兄さんってことで。」
「お兄さんじゃなくて悪かったな。」
「別に君のこと言ってないけど、あれっ、もしかして私のこと好きなの。」
「ナイナイ!絶対ない!」
「そこは、学習しようよ。」
「なんだよ。それ..意味わかんねーし。」
やっぱり男子にときめくのが普通の感情だよね。
なんて聞ける訳もない。
それに女の子だって恋愛対象になるのは理解している。
でも単純に好きとかいう危うく軽い感情とは違う気がする。
もっと深い、何か特別な意味があるような気がする。
でもそれが、さっぱりわからない自分にイライラする。
大輔君なら少しくらい意地悪しても許してくれるのがわかっていて鬱憤を晴らす私は、どうしようもなく性格が悪い。
もう一度会えたら、はっきりとした気持ちがわかりそうなのに。