story-1

 月の母は迷うことなく自らを地球に衝突させ互いの破片を蒔き散らす。

やがて寄り添うように融合した破片は月となり地球に舞い戻った破片は新たな種を息吹かせるだが月の母と地球は得体の知れない種も産み出していた。     

        少女たち       

目を覚ますと古代の暗闇が少女を包み込んでいた。

微かな光が薄れた影を照らし出す中、起き上がろうと地面に手に触れると冷たい石の感触が伝わる。

指先に謎めいたエネルギーを感じ、これから未知の旅が始まることを予感させた。

( 此処は何処だろう……私はいつから眠っていたのだ。)

闇の中で響く神秘的な囁きに誘われて足を踏み出し先に進む。

石畳を渡ると目前に巨大な竜が装飾された遺跡の姿が広がった。( ドラゴン……)

かつて栄華を誇ったであろう建造物が 今は荒れ果て、蔦や草がその姿を覆い隠している。

少女は遺跡の中を歩きながら、遠い記憶のかけらを探す。

すでに地球は静まり返り、人類の面影は遠い過去の断片となっていた。

遺跡の先にある深い緑のカーテンに覆われた古代の森へ足を踏みいれる。

巨大な木々が太陽の光をろうそくのように拡散させシダや苔が樹木にからまり、その細部が微細な美しさを放つ。

空気は濃密で、時折、風が樹木の葉をさらう音が響き渡り不気味ながらも美しい鳥のさえずりが風に乗り、そのざわめきが懐かしい音階を刻むとなぜか心が揺れた。

過去の記憶を更に探 し求めるが、答えは虚しく、頭に浮かぶ光景は幻に過ぎない。  

記憶の迷路を彷徨うなか突然、森の平和を切り裂くおぞましい唸り声が轟き渡り、その場に立ち止まる。

森の奥深くから湧き上がる邪悪な影が、無慈悲なまでの破滅を持って迫る中、心臓は激しく鼓動し、不安と興奮が交錯する。

その存在は森の生命力を奪い取り、周囲の樹木がその影に包まれ、一瞬にして枯れ果てた。

 ( いったい何が起きているのだ……)

大木の陰から姿を現した怪物の瞳は血走り、鋭く伸びた爪からは冷酷なまでの残忍さと、口からは恐ろしい死の臭いを感じる。

あまりの恐怖に、身体が硬直して動けない。少女は、怪物の前で震えながら立ちすくんでいた。

その目には絶望が宿り、死さえ覚悟する。

( 殺される……何の抵抗もできぬまま殺される)

その時、体が宙に浮き何者かに抱きかかえられたまま怪物から距離を取った。

   「戦うのだ。」  

私の手を握り発せられた声は力強く、その目には生きる勇気と決意が宿っていた。

頭に二本の突起物を持った娘らしき姿。彼女は手に持つ刀を差し出した。

「君にはそれが必要だ。」

彼女は少女の目を見つめ、その決意を促す。

まるで月の明かりを宿したように鈍く輝く刀を受 け取り、心の中に眠る勇気を呼び覚ます。

古代の森は、その日、新たな伝説を生んだ。  

勇敢な少女と獣人族の力強い絆が、暗闇を切り裂く光となり、未来への道を照らした。    

        

        始まりの歌 

 部室のソファーにリュックを放り出し、髪の毛を後ろで束ね腰をおろす。 

 「さぁ、やるか!」

と、気合いを入れリュックの中から携帯ゲーム機を取り出した。   

私は強い……強いのだ。  

しかも圧倒的に強いのだ。 

呪文のように唱えて始まるいつものゲーム。

指先は小気味よくコントローラーを操り普段と変わらない。  

隣では、雀がお経のような音階で呟くように歌っている。

以前より雀が歌うたび、妙な違和感を感じてはいた。

時間の経過と共に脳内に侵入した何者かが符号のような札を一枚一枚貼り付けている。そんなイメージが勝手に湧いてくるのだ。       

「……あのさぁ……思うんだけど……」 

真希は少し戸惑ったような表情を浮かべ

「ちょっと前からチュンが歌うと時々、変な現象が起きてたよね? 

うち、今日、漠然とした気持ちが確信に変わったわ。」 

と、おかしなことを言い出した。 

正面に座っていた真美子がスマホを、いじりながら顔を上げ真希を見る。 

「ほら、うちって結構ゲームやるじゃん。」

「あぁやるね。ほぼ廃人だよね。ってか、今も進行形でやってるじゃん。」 

そう言ってゲーム画面をテーブル越しに覗いて見る。

 「何だか、可愛らしい動物がピョコピョコと動き回ってるねぇ。」

「だろ…… どうみても穏やかで平和な場面が進行中だ。ところがだ…… いいか、ここがキモで!いきなり画面が切り替わったと思ったらなぜか古代の遺跡跡で目覚め、原始林みたいなとこを、さ迷うわ、不気味な怪物と遭遇して、これは死ぬと覚悟を決めた時、獣人族の少女に助けられこれぞまさしく生死をかけた戦いだ!みたいなことを、微妙な独り語りを交えながらさっきまでやってたわけさ。しかも決定的なことがひとつ。そもそもが、こんなゲームじゃないはずだけど……」

以外にも落ち着いた口調で体験した状況を伝える。

 「はぁぁ? なに訳わかんないこと言ってるの? 馬鹿じゃないの……こりゃ完全にダメなやつだわ。いきなりも何も……見えたものを脳内で処理してるから画像として見えるんだよ。あんた、ちゃんと目をあけて画面見てるの?脳内で妄想してるだけじゃないの。」

 はぁぁ~ぁ~ っと大きなため息をつくと冷ややかな眼差しを真希に向ける。 

頭の中に浮かぶ妙な違和感の正体が映像化の原因なのは間違いはない。

イメージした瞬間に目の前に映像として映し出されたのだから。 

ただ、何よりもいちばん驚いたのは切り替わった画面に映るアバターだ。

ゲームで作成したものとは明らかに違う。

それもそのはず……どうやらアバターは私自身そのもので、さすがに、こんなことがある訳がない……と、目を凝らして何度も確認したが間違いなく自分の顔だった。 

こんなことって……何度も何度も、自問を繰り返す。 

これは、本当にゲームのやり過ぎで頭の中がおかしくなってしまったのか……?っと

「でもな……歌の内容と見える画像に、まったく共通性がないように思えるのは何故なんだ?」

「そんなこと私にわかるわけないでしょ!そもそも、あんたの言ってることは、ゲームのやり過ぎで頭の中が妄想で暴走しているとしか思えないから。」

ほんと困ったもんだ……っと、あきれた、冷ややかな眼差しを再び真希に向ける。 

「妄想とか、してない、してない! マジ、勝手に始まったんだって!」

「あのさぁ…… 何度も言うけど、ゲームのやり過ぎ。少し自重した方がいいよ。……ほんとマジで心配するわ。」  

何だか、相手をするのがアホらしくなってきて、再びスマホをいじる。  

「だから違うって……うち、なんにも妄想とか絶対してないから。」 

あくまでも自覚は、ない!と言い張る真希に、さすがにイラっときた。 

「あーぁ、もう! ちょっと貸してみ!」並んで座っている二人の間に割り込むと乱暴に真希からゲーム機を取り上げた。 

そんな二人のやり取りを可笑しそうに見ていた雀に向かって

「チュンチュン!新しい曲、スタート」と、乱暴に告げた。

「えっ……いやいや、ムリ、ムリ、いきなり言われたってムリだって……」 

でも険しい顔つきで、ゲーム機を握りしめ、こっちをジッと見ている真美子に向かって、はっきりとイヤだ!とは言えそうにない。

「もう、しょうがないなぁ」

そう言うとペットボトルの水をひとくち飲み大きく息を吸う。 

目を閉じて、呼吸のリズムに意識を集中するとほんの短い時間で瞑想状態に入った。 

( ここは何処だろう?)

風がカサカサと枝葉を揺らしジジジッ、ケラッケラッと虫と蛙の鳴き声が混ざった怪しげな音が、まるで笑い声のように薄暗い森の中に響く。 

それが何だか懐かしく感じられ、どんどん森の奥へと進んで行くと、やがて道は途切れ月明かりに照らされキラキラ金色に輝く湖畔が目の前に現れた。

あたり一面にランプをひっくり返したような花が青白くボーッと光を放ち時おり吹く風に揺れるとリーンッ、リーンッと澄んだ音色を鳴らす。 

不意に足元に何がが触れた気がして思わず下を向くと不思議そうに、こっちを見上げる一羽のウサギと眼があった。  

何も考えることなくウサギを抱き抱え近くにあった大きな石の上に腰をおろす。 

頭を撫でながら、「今日はいい満月だね。」と言うと膝から飛び降りたウサギは一目散に駆け出し森の中に消えた。 

「あ~あ……行っちゃた」

水面にボーッと映る月明かりをぼんやり見ていると、だんだんと瞼が重くなり眠りに落ちそうだ。

冷たい風が頬を撫で、思わず瞼を開けた。 

するとさっきのウサギがいつの間にか足元にいる。

しかも何処からやって来るのかウサギはどんどん増え続け、私を囲むように輪になった。 

足元にいた最初の一羽が立ち上がると周りのウサギたちも一斉に立ち上がり、ケラケラと笑い出した。 

「さぁ 音楽会の始まりだよ」

その声が、あまりにも可笑しくて思わずゲラゲラと大声を出して笑い、両手で眼を塞ぐ。 

   「もういいかい?」   「まぁだだよ」   

    「もういいかい?」   「まぁだだよ」  

    「そろそろいくよ」

雀が語りかけるように歌い出した。

二人はその歌を黙って聴いていた。 

しばらくすると、ゲームをしている自分を見ているもうひとりの自分がいるような気がしてきた。  

( このおかしな感覚はいったいなんだろう?)

画像は、はっきりと目に映るのだが頭の中には真っ白と言うか何もない気がするのだ。 

画像に何の変化も起きないのは、もしかして脳内で画像が処理されていない?

いや、そんな馬鹿なことがあるわけない…… 

実際、目の前にはゲームの映像がはっきりと見えるのだ。  

視覚だけが映像を認知するとかおかしいだろ……

「あ〜あぁっ 何がなんだかさっぱり訳わからん……」 

そのうち空虚な空間と心地よい香りが脳内を包み支配していく。

驚いたのは、その香りがふっと漂い実際に匂いとして感じられたことだ。 

( 匂いだと……こんなことってありえるの? )

 確かめるように鼻の穴をクンクンと膨らませている間抜けた顔を晒している真美子を横目で見ながら 

「お前……感受性が欠落してるんじゃないのか……私なんか今度は、雪山に飛ばされて吹雪の中、不気味な魔物と睨み合っている真っ最中なんだが!」 

そういうと、武器を構えた仕草でVRゲームのように動いている。

( おいおい……まさか目の前に映像が見えているんじゃないないよね……) 

いったいどんな風に脳内処理されているのか覗いてみたいものだ。 

「おっと、いきなり魔弾をぶっぱなしてきたか!あんなの食らったら間違いなく即死だな。」 

 回転レシーブでもするかのように床に転がる様は、どう見ても大真面目にやっているとしか思えない。 

「ってか、あんた毎回戦ってるわけ……戦闘民族かよ」

こんな出来事があった後、三人は歌の持つ本当の意味を知らないまま新たな行動を起こしてしまう。                                                         

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